葛藤と重圧

中島咲紀(Rabbithole新宿店)

私はマーダーミステリー(以下マダミスと書く)においてゲームマスターとして日々の大半を過ごしている。

ざっと数えてみておよそこの一年半で400本超。
一生に一度しか出来ないシナリオでそれだけ皆さまの初めてをいただいていると考えるとちょっと涎がでますね。

ところでマダミスのゲームマスターをするより前から私はボードゲームが好きでゲームのインストをするのも大好きでした。

そんな時、数年前に行ったゲーマーケットでとある事を感じましたのです。

「ゲームを作る能力と売る能力は違うな」と。

ゲームマーケットの店頭でゲームの説明をし、販売促進をしているのはそのゲームの作者である場合が多いでしょう。

ゲームの作者はそのゲームを作ったのだから当然誰よりもゲームのことを知っている。
システムもそのゲームの魅力も…楽しんでもらいたい気持ちも誰よりもあるだろう。

しかし数年前、初めて行ったゲームマーケット、作者からのインストを聞き試遊し魅力を感じたゲームはほとんどありませんでした。
ちなみに何も買わずに帰ってきた。
(初めてで目当てのゲームがあったわけでもなかったしね)

だがそれから数日後、違うところでそのゲームをプレイする機会があったのだが、普通に面白かったのだ。

その時に「なんてもったいないんだ!」と感じた。

こんなに面白いゲームなのにセールスの仕方でこんなにも印象が変わってしまう物なのかと。
こんなに楽しいゲームだとあの時理解出来ていたなら買っていたのに。
昔、結婚式場で営業をしていたりして自分は根っからの営業マン気質だと思っているのでプレゼン力にはある程度の自信があったこともあり、私ならもっとこのゲームの良さを伝えられるのに!!と思ったのです。
※もちろんゲームを作ることも勧めることもお上手な方は沢山いらっしゃるのは知ってますよ!あしからず…

それから一年くらい経って私はゲームマーケットを参加する側から出展する側になっていた。
でも自分の作ったゲームではない。
人様が作ったゲームの売り子、試遊卓でのインスト要因だ。
もちろん前もって売り出すゲームはプレイさせてもらい、自分なりにどうやったら人にわかりやすくインストできるのか考えた。
だって自分が作ったわけでもないゲームを売ろうというのだ。
作者が何を伝えたいのか、どう楽しんでもらいたいのか。
最初は何も分からない。
しかし責任感は半端ない。
試遊の後に「えーなんか難しかったですー。」とか「よく分かんなかったです。」とか言われた日にゃ罪悪感で消え失せるぐらいのお豆腐メンタルの持ち主ですし。

何より作者の人は自分が一番理解しているであろうそのゲームの魅力を人に伝える権限を私に委任してくれているのだ。
大袈裟な表現かもしれないが、私に一定数の信頼を置いてくれていることは間違いない。
そしてお賃金をもらっている以上仕事なので売り上げを考えないのも無責任だと思う。
なので私はそのためにまず自分が誰よりもこのゲームを理解しそして大好きにならなければと思った。
ほら、人って自分の好きなもの人に勧めるの好きじゃん?布教大好きじゃん?

そんな心持ちでインストをやっていたわけだが、頑張りが伝わっていたのか…おかげでゲムマも回を重ねるごとにインスト&売り子としてお声をかけていただける数も増えていった。ありがたし。

話題が逸れてしまったが、マダミスのゲームマスターに話を戻したいと思う。

私は自分でマダミスを制作したことはない。
なので今までゲームマスターを担当してきたシナリオたちは全て自分ではない人たちが作り、私個人なり、Rabbitholeなりに卸しているのもだ。

作者的には自分の子供とも言えるシナリオ。
それを興味をもって来てくれたお客様に体験してもらう。
そして満足した気持ちで帰路についていただく。

そのためにはまずゲームマスターとして自分が誰よりもそのシナリオを理解し、大好きにならなければ人にオススメなんて出来ないだろう。

もちろんゲームマスターをする前に自分もプレイヤーとして体験する。
基本的はテストプレイ段階で体験することがほとんどだが、シナリオによってはまだちゃんと完成していないものも多くある。

完成していないシナリオの場合、全てを楽しむことは出来なかったものももちろんある。
担当したキャラクターが正直ハズレだったなと思うこともある。
(もちろんテストプレイ段階で素晴らしく完成している作品もある)
しかしRabbitholeで公演しているシナリオは個人の好みはあろうとも最低限の楽しさは担保した状態にしてリリースをしている。

自分に合わなかったシナリオだからといってゲームマスター出来ない、やりたくない、は通用しない。

そこから模索が始まる。

このシナリオの最大の魅力、作者の伝えたいこと、オススメポイント、キャラクターの理想的な動き方…e.t.c

例えば自分がプレイした時にハズレだと思ってしまったキャラクターをどうすれば楽しめるのか。楽しんでもらえるのか。
より効果的な演出の仕方、シナリオの雰囲気にあった進行の仕方、解説の納得感。

ゲームマスターは司会であり取扱説明書であり黒子であり音響であり照明でありにぎやかしであり全てを知る神でもあるのだ。

ここでまたちょっと話はずれるが、同じ言葉を「読む」というのも音の強弱、速度、音程、で伝わり方は全く違ってくる。

ゲームマスターをやりたい人などに是非やってもらいたいのが、本でもなんでもいい、文章を読むときに一文づつ、この文章で伝えたいことはどの部分なのか、それを伝えるために強調する部分はどこなのか。
ということを意識しながら声に出して読んでほしい。

単純に声を大きくするのか、音程を高くするのか、ゆっくり読むのか、早く読むのか、いっそ2回繰り返すのか…
これには正解というものはなく、その人の声質や喋り方で変わってくるので要研究である。

ちなみに分かりやすいお手本はジャ○ネット。
いや、それはやりすぎだろうって思うじゃないですか。
安心してください、やろうと思って簡単に出来るものじゃないのでジ○パネットを目指すくらいの気持ちでやってもらって大丈夫です。

まぁ実際ジャパ○ットでやるとやりすぎですけどね。

マダミスに話を戻しましょう。
そんなわけで人様が作った作品を預かりゲームマスターをしているのでその責任はいつも重くのしかかってきます。

でももちろんゲームマスターをやっている時はそんな素振りは見せられません。
何事にも余裕に振る舞い、プレイヤーのサポートをします。

しかし終わった後に「面白くなかった」なんて言われようものならその責任は作品の良さを伝えきれなかった自分のせいだと思ってしまうのです。

もちろん全てがそういった理由ではないと分かっています。
プレイヤーとシナリオの相性や他のプレイヤーの動き方、様々な要因が合わさっての体験感の結果なのはわかっていますが、それでも決して安くない代金を支払い、一生に一回の体験をしに来てくださった方を楽しませられなかった。という後悔。

作者の方にも「魅力を伝えられなかった…」と申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。

なのでそうならないように自分ができる精一杯の力でみなさんを楽しませたい。
それが例えばNPCとして一緒に物語に没入するのか、黒子として密かに演出を盛り上げるのかはたまた存在を消して静かに見守るのか…

そして全てが終わった後お客様に「すごく楽しかったです!」と言ってもらえた瞬間。

自分がやってきたことが肯定された、とんでもない満足感に包まれるのです。
お豆腐メンタルを持ち合わせた自分はその「楽しかった」の言葉たった一つで全回復するのです。

ここからはちょっとしたお願いです。

どうかこれからマダミスをプレイする方、プレイ中はゲームマスターの存在を忘れてください。
でもゲームマスターが喋った時は物語に介入してでも伝えたいことなので聞いてあげてください。

そしてプレイし終わった後に「楽しかった」と思ってもらえたのならゲームマスターにとびきりの笑顔で「楽しかった!」と伝えてください。

ゲームマスターの動きが特に良かったと思った時は「アナタがゲームマスターで良かった」と伝えてあげてください。

ゲームマスターはその言葉でとんでもない満足感と充実感と次なるやる気を見出すのです。

ちょろいもんでしょ?(笑
でもゲームマスターってそんなもんなんですよ。